岩根愛は、長年にわたって、古来の儀式や、過去の痕跡を可視化することに強く惹き付けられてきた。前作の〈KIPUKA〉でも、また暗闇のなかで桜と伝統芸能の舞を撮影した最新作〈A NEW RIVER〉でも、岩根は目もくらむような色彩と透明感を駆使し、歴史のレイヤーを現在に重ね合わせて、現実世界を起点としたファンタジーを生み出している。それはまさに、カルティエ=ブレッソンが「L'Imaginaire d'après nature(『こころの眼』)」と呼んだものだ。コロナ禍でライトアップが中止となった東北の桜の名所を歩いているうちに「自然と人間の境界が曖昧になった」と岩根は語っている。その作品は、私たちを未知の異次元世界へと運んでいく。そこにはオーロラのように神秘的な美しさがある。岩根愛は映像とプロジェクションを用いて自らのストーリーをさらに深く掘り下げ、それを高度に感覚的な形で観賞者に提示する。
〈A NEW RIVER〉は、魅惑的で光あふれる日本の東北地方への旅であり、パンデミックの最中にあって心の支えとなってくれるような、逞しい存在感を放つ桜の探訪である。写真と言葉を通じて、岩根愛は自らと自然との深いつながりを表現し、先祖伝来の信仰との関係性を表現する。
東京都出身。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学し、オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、1996年より写真家として活動を始める。ハワイ移民を通じた福島とハワイの関わりをテーマに、2018 年、『KIPUKA』(青幻舎)を上梓、第44回木村伊兵衛写真賞、第44回伊奈信男賞受賞。ドキュメンタリー映画「盆唄」(中江裕司監督作品、2018年テレコムスタッフ)を企画、アソシエイト・プロデューサーを務めるなど、離れた土地の見えないつがなりを発見するフィールドワーク的活動を続ける。2021年、第37回写真の町東川賞新作家賞受賞。最新作品集に『A NEW RIVER』(bookshop M 2020)、著作に『キプカへの旅』(太田出版 2018)『ハワイ島のボンダンス』(福音館書店 2016)。